A型事業所の閉鎖・解雇はなぜ起きる?報酬改定と経営構造を解説

2025年6月、厚生労働省は、令和6年度にハローワークへ届け出られた障がい者の解雇者数が9,312人となり、過去最多を記録したと公表しました。

その後に公表された令和7年度の解雇者数は3,692人まで減少しましたが、令和6年度に大幅な増加が起きた事実は変わりません。厚生労働省の資料では、令和7年度の障がい者の就職件数がわずかに減った要因の一つとして、就労継続支援A型事業所への就職件数の減少も挙げられています。

A型事業所の閉鎖や事業縮小は、一般企業の廃業とは少し異なる影響をもたらします。

A型事業所の利用者は、事業所と雇用契約を結び、賃金を得ながら障害福祉サービスとしての就労支援を受けています。そのため、事業所が閉鎖すると、利用者は雇用と福祉サービスの両方を同時に失う可能性があります。

この記事では、A型事業所の閉鎖や利用者解雇が起きる背景を、令和6年度報酬改定とA型事業所の経営構造から整理します。

目次

A型事業所は「許可」ではなく指定を受けて運営する

就労継続支援A型事業所を運営するには、法人を設立したうえで、都道府県・指定都市・中核市などの指定権者から、障害福祉サービス事業者としての指定を受ける必要があります。

また、障害福祉計画があるからといって、すべての自治体でA型事業所の新規指定数に一律の上限が設定されているわけではありません。

障害福祉計画では、地域に必要と見込まれるサービス量や提供体制を定めますが、新規指定を制限する仕組みの有無や運用は、サービス種別や自治体によって異なります。

したがって、

行政が指定したのだから、事業所の経営は安定するはず

とは限りません。

指定時に確認される人員・設備・運営基準を満たしていても、開設後に利用者を確保できるか、安定した仕事を受注できるか、賃金を継続して支払えるかは、別の経営課題です。

A型事業所には二つの収入構造がある

A型事業所の収入は、大きく次の二つに分かれます。

  • 障害福祉サービスの提供に対して支払われる訓練等給付費
  • 商品販売、受託作業、施設外就労などの生産活動による収入

一方、利用者へ支払う賃金については、生産活動による収入から必要経費を差し引いた生産活動収支によって賄うことが原則です。

厚生労働省令では、A型事業者に対し、生産活動収入から必要経費を控除した額が、利用者へ支払う賃金総額以上となるよう求めています。

つまり、本来の構造は、

福祉報酬を受け取り、その中から利用者の賃金を支払えばよい

というものではありません。

生産活動そのものを事業として成立させ、賃金を支払えるだけの収益を確保する必要があります。

令和6年度報酬改定で何が変わったのか

A型事業所の基本報酬は、事業所ごとの取組や実績を点数化する「スコア方式」によって区分されます。

令和6年度報酬改定では、A型事業所の経営改善や一般就労への移行を促すため、スコア方式が見直されました。

特に生産活動に関する評価では、

  • 生産活動収支が賃金総額以上となっている事業所を高く評価する
  • 生産活動収支が賃金総額を下回っている状態が続く事業所を減点する
  • 経営改善計画を提出していない場合なども減点する

という方向性が強まりました。

現在の評価では、前年度・前々年度・前々々年度の生産活動収支がいずれも賃金総額以上となっている場合は高い点数が与えられます。

反対に、複数年度にわたり生産活動収支が賃金総額を下回っている場合は、マイナス評価となります。

報酬改定だけが閉鎖の原因なのか

令和6年度報酬改定が、経営状態の厳しいA型事業所に影響したことは否定できません。

厚生労働大臣も、令和6年度報酬改定について、生産活動収支が賃金総額を上回る事業所を高く評価し、下回る事業所への評価を厳しくする見直しを行ったと説明しています。

ただし、

報酬改定によって突然、健全な事業所が運営できなくなった

と一律に捉えるのも正確ではありません。

令和6年度改定は、以前から求められていた生産活動収支の確保を、基本報酬の評価により強く反映したものです。

閉鎖や事業縮小に至る背景には、次のような複数の問題が重なっている可能性があります。

  • 受注単価が低い
  • 特定の取引先への依存度が高い
  • 利用者数が安定しない
  • 最低賃金の上昇に生産活動収入が追いつかない
  • 職員の人件費や家賃など固定費が重い
  • 生産活動収支の赤字が長期化している
  • 福祉報酬への依存度が高い
  • 経営改善計画が実行されていない
  • 管理者や経営者が事業所の収支構造を十分に把握していない

したがって、報酬改定は閉鎖の一因となり得ますが、それ以前から抱えていた経営上の問題を表面化させた面もあると考えられます。

「支援の質が低いから減額された」とは限らない

ここは慎重に区別する必要があります。

スコアが低いことや、生産活動収支が賃金総額を下回っていることだけをもって、

支援の質が低い事業所である

とは断定できません。

A型事業所が支援する利用者の障がい特性や必要な配慮、地域の産業構造、受注環境などは、事業所によって異なります。

収益性の高い仕事を確保しやすい地域もあれば、そうでない地域もあります。短時間勤務や手厚い支援を必要とする利用者を多く受け入れていることが、収支に影響する場合もあります。

一方で、利用者へ賃金を支払い続けるには、継続可能な生産活動をつくる必要があります。

支援の質と事業の採算性は同じものではありませんが、A型事業所を継続するには両方が必要です。

A型事業所の閉鎖で利用者に起きること

A型事業所が閉鎖または事業縮小すると、利用者は雇用契約の終了に直面します。

しかし、別のA型事業所へ移れば直ちに解決するとは限りません。

利用者によっては、次のような問題があります。

  • 通所できる範囲に他のA型事業所がない
  • 新しい作業内容に適応できない
  • 人間関係や環境の変化で体調を崩す
  • 希望する勤務時間や賃金条件と合わない
  • 新しい事業所の採用選考を通過できない
  • 再び福祉サービスの利用手続が必要になる
  • B型や就労移行支援など、別の選択肢を検討しなければならない

A型事業所は福祉サービスであると同時に、利用者にとっては勤務先です。

閉鎖によって失われるものは、賃金だけではありません。生活リズム、人間関係、安心して働ける環境、支援者とのつながりなども同時に変わる可能性があります。

事業を廃止するときの事業者の責任

障害福祉サービス事業者が事業を廃止する場合、利用者が引き続きサービス提供を希望するときは、他の事業者や関係機関との連絡調整などを行い、必要なサービスが継続されるよう対応する責務があります。

厚生労働省は、A型事業所の廃止や事業縮小によって解雇・雇止めが生じる場合、ハローワークと自治体が連携し、離職者の希望に応じた再就職支援を行うと説明しています。

ただし、連絡調整を行えば、必ず利用者の希望に合う次の勤務先が見つかるわけではありません。

だからこそ、廃止が避けられない段階まで追い込まれる前に、経営状態を把握し、改善に着手する必要があります。

閉鎖を避けるために確認したい経営指標

A型事業所では、障害福祉サービスの請求額だけを見ていても、経営状態を正確に判断できません。

少なくとも、次の項目は分けて確認する必要があります。

生産活動収支

生産活動収入から、生産活動に直接必要な経費を差し引いた金額です。

利用者賃金総額と比較し、基準を満たしているかを確認します。

利用者賃金総額

利用者へ支払った賃金の合計です。

最低賃金の改定や勤務時間の変化が、今後の賃金総額へどの程度影響するかも試算します。

福祉事業全体の収支

給付費や加算収入から、職員人件費、家賃、事務費、システム費用などを差し引いた事業全体の収支です。

生産活動が黒字でも、福祉事業全体として赤字になる場合があります。反対に、事業全体が一時的に黒字でも、生産活動収支が基準を満たしていない場合があります。

取引先別の売上構成

特定の取引先が売上の大半を占めている場合、その契約が終了すると事業継続が難しくなる可能性があります。

売上額だけでなく、取引先の分散、契約期間、利益率、作業量の安定性を確認する必要があります。

スコアの将来予測

現在のスコアだけでなく、翌年度にどの区分となる見込みかを試算します。

基本報酬が下がってから対応を始めるのではなく、前年度中に影響を把握しておくことが重要です。

行政も指定後の運営状況を確認する方向へ

厚生労働省は、令和7年度に「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」を公表しています。

新規指定時の事業計画だけでなく、指定後の生産活動や収支状況を把握し、必要な指導につなげる考え方が示されています。

A型事業所については、指定を受けることがゴールではありません。

指定後も、

  • 生産活動が計画どおり進んでいるか
  • 利用者賃金を安定して支払えるか
  • 経営改善計画が実行されているか
  • 支援体制と事業規模が釣り合っているか

を継続して確認する必要があります。

当事者として考えるA型事業所の閉鎖

A型事業所を利用する人にとって、閉鎖は「会社が一つなくなった」というだけの出来事ではありません。

体調や障がい特性を理解してくれる場所を見つけ、ようやく働く生活を築いた人もいます。

新しい環境へ移ることが、他の人には小さな変化に見えても、本人にとっては大きな負担になる場合があります。

一方で、事業者にも、最低賃金、物価、人件費、受注確保など、簡単には解決できない経営上の現実があります。

だからこそ必要なのは、利用者と事業者のどちらか一方を責めることではありません。

問題が深刻になる前に数字を把握し、制度上の要件と現場の状況を整理して、必要な改善を一つずつ進めることです。

まとめ

令和6年度には、ハローワークへ届け出られた障がい者の解雇者数が9,312人となり、過去最多を記録しました。令和7年度は3,692人まで減少しましたが、A型事業所への就職件数は前年度から減少しています。

A型事業所の閉鎖や解雇には、令和6年度報酬改定だけでなく、次のような構造的な問題が関係します。

  • 生産活動収支が利用者賃金総額を下回っている
  • 受注単価や仕事量が安定しない
  • 最低賃金や固定費が上昇している
  • 福祉報酬への依存度が高い
  • 経営改善への着手が遅れている

報酬改定は、こうした問題を新たにつくったというより、以前から存在していた経営課題を、基本報酬の評価に強く反映したものと見る必要があります。

A型事業所を継続するためには、支援の理念だけでなく、生産活動、賃金、福祉報酬、職員体制を一体として管理することが欠かせません。

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