障がい福祉事業所を開設しようとすると、物件の取得費、内装工事費、備品代、人件費など、指定を受ける前からさまざまな費用が発生します。
しかも、指定を受けてサービス提供を始めた直後から、障害福祉サービス報酬がすぐに入金されるわけではありません。
そのため、開設資金を考えるときは、単に「物件と設備にいくらかかるか」を計算するだけでは不十分です。
指定申請までに必要な費用と、開設後の事業運営を支える資金を分けて整理し、報酬が安定して入金されるまで事業を継続できる計画を立てる必要があります。
この記事では、障がい福祉事業所の開設を検討している方に向けて、融資を申し込む前に整理しておきたい資金計画の考え方を解説します。
開設資金は「設備資金」と「運転資金」に分けて考える
事業に必要な資金は、大きく次の2つに分けられます。
設備資金
設備資金は、事業を始めるために一時的に必要となる資金です。
障がい福祉事業所では、例えば次のような費用が考えられます。
- 物件の保証金、敷金、礼金
- 仲介手数料
- 内装工事費
- 消防設備の設置・改修費
- 机、椅子、棚などの什器
- パソコン、電話、複合機
- 支援や作業に使用する備品
- 送迎用車両
- 看板やホームページの制作費
ただし、必要な設備は、就労継続支援B型、共同生活援助、放課後等デイサービスなど、開設するサービスによって異なります。
同じサービスであっても、物件の状態や事業内容によって工事費は大きく変わります。
物件を契約する前に、指定基準、建築関係法令、消防関係法令などを確認せず、「後から改修すればよい」と考えるのは危険です。想定外の工事が必要になれば、資金計画そのものが崩れる可能性があります。
運転資金
運転資金は、開設後の事業を継続するために必要となる資金です。
例えば、次のような支払いがあります。
- 職員の給与
- 社会保険料
- 物件の賃料
- 水道光熱費
- 通信費
- 車両費
- 保険料
- 給食費や活動費
- 消耗品費
- 会計・請求ソフトの利用料
- 広告宣伝費
- 借入金の返済
障がい福祉事業では、利用者へのサービス提供後、請求手続きを経て報酬が入金されます。
そのため、開設直後は、売上に当たる報酬が十分に入っていない状態でも、給与、家賃、社会保険料などを先に支払わなければなりません。
開設当初から予定どおり利用者が集まるとも限りません。
「定員20名だから、開設後すぐに20名分の報酬が入る」という前提で収支計画を作ると、利用者が増えるまでの期間に資金不足を起こすおそれがあります。
障がい福祉事業所の資金計画で見落としやすい費用
開設資金を見積もる際には、見積書に表れやすい工事費や備品代だけでなく、次のような費用にも注意が必要です。
指定前から発生する人件費
管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、職業指導員、生活支援員など、指定に必要な人員を確保するため、開設前から雇用を始めることがあります。
しかし、指定前は障害福祉サービス報酬を請求できません。
研修、開設準備、マニュアル作成、利用希望者への対応などのために勤務してもらう場合、その給与は開設者が準備した資金から支払うことになります。
採用時期を早めるほど準備は進めやすくなりますが、その分だけ開設前の人件費が増えます。
物件契約から指定までの賃料
障がい福祉事業所の指定申請では、原則として事業を行う場所が具体的に定まっている必要があります。
そのため、指定日より前に物件を契約し、賃料を支払いながら申請や審査を進める場面があります。
物件を契約した月から指定日までの賃料、共益費、光熱費なども、資金計画へ入れておく必要があります。
利用者が増えるまでの赤字
開設初月から利用者数が事業計画どおりになるとは限りません。
見学、体験利用、相談支援事業所との調整、市町村による支給決定などを経て、少しずつ利用開始につながることもあります。
その間も、配置基準を満たすための人件費や家賃は発生します。
収支計画では、最初から満員になる前提ではなく、利用者数が段階的に増える想定を置く方が現実的です。
開設後に追加で発生する整備費用
指定を受けた後も、事業運営にはさまざまな整備が必要です。
例えば、次のようなものがあります。
- 各種業務マニュアル
- 感染症対策用品
- 非常災害用の備蓄品
- 個人情報を保管する鍵付き書庫
- 支援記録・請求システム
- 法定研修や委員会の実施環境
- 防犯・安全対策用品
一つひとつは少額でも、まとめると一定の負担になります。
融資を申し込む前に創業計画書を作る
創業融資を検討する場合、代表的な相談先の一つが日本政策金融公庫です。
日本政策金融公庫では、新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした「新規開業・スタートアップ支援資金」が設けられています。
また、創業前または創業後間もない方が申し込む場合、事業内容、創業の動機、経営者の経歴、必要資金、調達方法、事業の見通しなどを記載した創業計画書を準備します。
創業計画書は、書式を埋めれば完成するものではありません。
特に障がい福祉事業では、次の内容に一貫性があるかを確認する必要があります。
- なぜ、この障害福祉サービスを始めるのか
- 代表者や職員にどのような経験があるのか
- どの地域で、どのような人を対象とするのか
- 他の事業所とどのような違いがあるのか
- 利用者をどのように確保するのか
- 必要な職員をどのように採用するのか
- いつ指定申請を行い、いつ開設するのか
- 利用者数がどのように増える見込みなのか
- 売上と経費の根拠は何か
- 開設後の赤字をどの資金で補うのか
金融機関に伝えるべきなのは、単なる「福祉への思い」だけではありません。
理念とともに、事業を継続できる具体的な根拠を示すことが重要です。
必要資金は見積書と月別収支で確認する
資金計画を作るときは、必要資金を感覚で決めるのではなく、可能な限り根拠を集めます。
設備資金については、内装工事、車両、設備、備品などの見積書を取得します。
運転資金については、少なくとも次の項目を月別に整理します。
- 想定利用者数
- 想定稼働日数
- 想定する基本報酬
- 加算の算定見込み
- 人件費
- 法定福利費
- 家賃
- 水道光熱費
- 車両費
- その他の固定費・変動費
加算については、「取得できると思う」という見込みだけで売上に入れるのではなく、人員配置や届出要件を満たせるかを確認する必要があります。
また、利用率を最初から100%に設定するのではなく、複数のケースを作る方法もあります。
例えば、利用者数が計画どおり増えた場合だけでなく、増加が遅れた場合に、何か月間事業を継続できるかも確認します。
自己資金は「割合」だけで判断しない
創業融資について、「自己資金は必要資金の何割あればよいのか」と尋ねられることがあります。
しかし、自己資金について、一律に「3分の1あれば融資を受けられる」「半分なければ申し込めない」と判断することはできません。
日本政策金融公庫の現在の創業融資案内では、創業期の方について、原則として無担保・無保証人で利用できる制度が案内されています。一方、創業計画書の確認では、自己資金が少なく、借入に依存した資金計画になっていないかも確認項目とされています。
したがって、自己資金は単純な割合だけでなく、次のような事情を含めて見られると考える必要があります。
- 必要資金の総額
- 自己資金をどのように蓄積したか
- 借入希望額の根拠
- 開設後の返済可能性
- 代表者の経験
- 事業計画の実現可能性
- 他の借入れや毎月の返済負担
自己資金が少ない場合には、無理に数字を大きく見せるのではなく、事業規模、物件、設備、採用時期などを見直し、必要資金そのものを抑えられないか検討することも必要です。
日本政策金融公庫へ申し込む場合の基本的な流れ
日本政策金融公庫への申込みは、おおむね次の流れで進みます。
1.創業計画と必要資金を整理する
事業内容、開設予定地、人員体制、必要資金、収支見込みを整理します。
2.必要書類を準備する
創業予定者がインターネットで申し込む場合、創業計画書、設備資金の見積書、法人の場合は履歴事項全部証明書などを準備します。
申込内容によっては、追加書類を求められることがあります。
3.融資を申し込む
日本政策金融公庫では、インターネットから申込みができます。
申込み方法や利用する制度によって必要書類が異なるため、公式案内で確認します。
4.審査を受ける
提出した書類をもとに、資金の使い道、事業計画、資産・負債の状況などについて確認を受けます。
事務所や店舗を訪問して確認が行われる場合もあります。
5.契約・入金
融資が決定した場合は、契約手続を行い、手続完了後に指定した金融機関の口座へ融資金が送金されます。
審査期間は、申込内容、提出書類、確認事項などによって異なります。
物件契約日や工事代金の支払日が決まっている場合は、融資実行までの期間を見込み、余裕を持って相談する必要があります。
先に物件を契約すれば融資を受けられるとは限らない
障がい福祉事業所の開設では、「指定申請には物件が必要」「物件契約には資金が必要」「融資には事業計画が必要」という関係があります。
ここが、開設準備で特に難しい部分です。
融資が決まる前に物件を契約した場合、融資を受けられなかったとしても、賃料や解約費用を負担しなければならない可能性があります。
一方で、物件が具体的に決まっていなければ、工事費や賃料を正確に見積もれず、指定申請の準備も進めにくくなります。
したがって、次の作業を別々に進めるのではなく、並行して整理することが重要です。
- 事業計画の作成
- 指定基準の確認
- 物件候補の調査
- 人員確保の見通し
- 工事・設備費の見積り
- 金融機関への相談
- 開設予定日の設定
物件を契約する前に、障がい福祉事業所として使用できる見込みがあるかを確認し、融資や指定申請のスケジュールも含めて判断する必要があります。
まとめ
障がい福祉事業所の開設資金を考えるときは、物件費や内装工事費だけでなく、開設前の人件費、指定までの家賃、報酬入金までの運転資金、利用者が増えるまでの赤字も見込む必要があります。
まず行うべきことは、融資希望額を決めることではありません。
事業を始め、継続するために必要な費用を具体的に整理し、そのうち自己資金で賄える金額と、借入れが必要な金額を明らかにすることです。
また、融資の計画と指定申請の計画は切り離せません。
物件、人員、資金、指定基準、開設時期を一つの計画として整理することで、途中での手戻りや資金不足を防ぎやすくなります。
