就労選択支援事業所は「ただの相談窓口」ではない
2025年10月に始まる「就労選択支援事業所」。制度上は「多様な就労ニーズに合った選択肢を提示する」ことが目的とされていますが、その中身をよく見ていくと、「就労支援の入口」としてだけでなく、「ふさわしい進路を見極める役割」までを担う存在として位置づけられています。
この構造は、介護保険でいう“ケアマネジャー”に非常によく似ています。本人や家族の希望を聞きながらも、客観的な評価や制度的な妥当性をもとに、サービス提供先を「調整・提案」する――まさに“就労系のケアマネ”と呼べる存在になりつつあるのです。
制度の裏にある国の「設計思想」
なぜ、今この制度なのか?
就労継続支援A型・B型、就労移行支援――現行制度では、本人(ご家族や支援者)の希望や判断によって進路が決まるケースがほとんどです。その結果、「本来B型が向いている方がA型に」「移行に行くべき人がB型に留まってしまう」といった“ミスマッチ”が各地で指摘されてきました。
こうした“選択の自己決定”の限界に対して、「中立的な第三者が入って就労支援の流れを整理しよう」というのが就労選択支援の本質だと思うのです。
裏を返せば、これは“制度の精度を高めるために、本人の希望だけでは決められない時代”への突入とも言えます。
「うちの事業所に紹介してばかり」はもう通用しない時代へ
事業所と支援者の“距離”が問われる構造に
就労選択支援においては、介護保険と同様、特定の事業所への紹介が多すぎると報酬が減算される仕組みが導入される予定です。
つまり「とりあえず自法人のA型やB型に…」という流れは、制度的にブレーキがかかります。
この背景には「公平性」と「客観性」を担保する狙いがありますが、一方で既存の就労系事業所には大きな影響を与えることになります。
就労選択支援は“新しい義務”になるのか?
「B型を使いたいなら、まず就労選択支援へ」のインパクト
現段階では、「新たにB型を利用したい方」は就労選択支援の利用が必要とされる予定になっています。しかし、これは“制度の序章”に過ぎない可能性があります。
今後、たとえば「A型・B型・移行のいずれかを選ぶ前には、必ず1~2ヶ月の就労選択支援を経ることが義務」となる未来は、そう遠くないかもしれません。
さらに、特別支援学校を卒業する生徒が、卒業直前後に1ヶ月間就労選択支援を受けることが“通過儀礼”になるような構想も見えてきます。(実際に今後の制度設計で、見通しは述べられています)
つまり、就労選択支援を経なければ、福祉的就労につながらない時代がくる可能性があるのです。
評価の力が“進路”を左右する時代へ
本人や家族の希望は、どこまで通る?
今までは、「本人がA型に行きたいと言っている」「家族がB型の方が安心と言っている」といった意思が尊重されてきました。
しかし、就労選択支援員によるアセスメントと評価が制度上求められることで、その選択が“支援員の判断に基づく推奨”という形に変わっていきます。
もちろん、本人の意向が無視されるような仕組みになってはいけません。
しかし一方で、「本人の意向に寄りすぎると制度の目的が達成できない」というジレンマもあります。
この制度は、“誰の意見がいちばん重くなるのか”という価値基準の再編を、私たちに突きつけています。
「選ばれるための準備」が今、求められている
就労選択支援員の人材確保・スキル向上は急務です。現場で働く支援員には、アセスメント力・情報収集力・中立性など、高度な専門性が求められます。
同時に、就労系の各事業所は「支援員からも、利用者からも選ばれる存在」にならなければ生き残れない。支援内容・環境・実績・地域連携――すべてが問われる時代が来ます。
注視しなければ、後れを取る
今、制度が動いている真っ最中です。まだ曖昧な部分も多く、「実際どう運用されるのか」は始まってみないとわからない部分もあります。
しかし、この制度の方向性だけはハッキリしています。就労支援の“選択”は、制度的に再設計されようとしているのです。
事業所の管理者・職員・利用者・家族、そして今後制度を利用するかもしれない方すべてが、この動きに目を離してはいけない時期に来ています。
今後も「制度のリアル」を追っていきます
私は、制度の建前や理想論ではなく、現場感覚に基づいた「使う側・支える側のリアル」に目を向けていきたいと思っています。
今後も就労選択支援についての変化や、新しい課題について発信していきますので、よければ引き続きチェックしていただけたら嬉しいです。
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