就労選択支援を実施した後、利用者が同じ法人の就労移行支援、就労継続支援A型・B型を利用することになった場合、
自法人の事業所を案内すると減算になるのではないか
他法人の事業所へ紹介しなければならないのではないか
と不安になるかもしれません。
しかし、利用者が自法人の事業所を選んだことだけで、直ちに減算されるわけではありません。
問題となるのは、正当な理由がないまま、特定の事業者が提供する就労系サービスへ利用が集中している場合です。
就労選択支援は「行き先を決めるサービス」ではない
就労選択支援は、短期間の作業体験などを通じて、本人の希望、就労能力、適性、必要な配慮などを整理し、本人が就労先や働き方をより適切に選べるよう支援する障害福祉サービスです。
事業所が本人に代わって行き先を決めたり、自法人のサービスへ誘導したりすることが目的ではありません。
本人が比較・検討するために必要な情報を提供し、アセスメント結果を共有しながら、本人の選択を支えることが基本になります。
自法人の事業所を利用すること自体は禁止されていない
就労選択支援を実施した法人が、就労移行支援やA型・B型も運営している場合があります。
アセスメントと本人の希望を踏まえた結果、同じ法人の事業所を利用することになっても、それだけで制度違反や減算になるわけではありません。
注意が必要なのは、
- 自法人の事業所しか説明していない
- 他の選択肢を比較する機会がない
- アセスメント結果と行き先の関係が分からない
- 本人の希望を確認した記録がない
- 法人側の都合で行き先が決まっている
と見える運用です。
「自法人を選んだこと」ではなく、本人が選べる過程を確保していたかが重要です。
特定事業所集中減算とは
就労選択支援には、特定事業所集中減算があります。
正当な理由なく、前6か月間に実施したアセスメントの結果を踏まえて利用者が利用した就労移行支援、A型またはB型について、同一の事業者が提供したものの割合が80%を超える場合、200単位が減算されます。
ここで確認しておきたいのは、次の3点です。
「同一法人」ではなく「同一の事業者」への集中を見る
減算は、利用者が選んだ就労系サービスについて、同一の事業者が提供したものの割合を確認する仕組みです。
自法人の事業所を一人でも利用したら減算される、という意味ではありません。
80%を超えただけで自動的に減算とは限らない
基準では「正当な理由なく」80%を超えた場合が対象とされています。
地域に利用可能な事業所が少ない場合など、集中したことに合理的な事情がある可能性もあります。
ただし、何が正当な理由として認められるかは、事業所だけで判断せず、最新の通知や指定権者の案内を確認する必要があります。
判定対象は直近6か月間
一時点の利用者数だけで判断するのではなく、前6か月間の実績を基に確認します。
事業所では、利用者の行き先と運営法人を継続して集計できるようにしておく必要があります。
大切なのは「減算を避けるための記録」ではない
減算対策というと、
自法人を選んだ理由を記録しておけばよい
と考えがちです。
しかし、結論に合わせて理由を後から整えるだけでは、就労選択支援の趣旨に沿った運用とはいえません。
記録すべきなのは、本人が選択するまでの実際の支援経過です。
- 本人が希望する働き方
- 得意なことや苦手なこと
- 作業体験で確認できたこと
- 必要な合理的配慮
- 本人へ提供した選択肢
- 各事業所について説明した内容
- 本人の質問や反応
- ケース会議で出た意見
- 本人が最終的に選んだ内容
- その選択に至った理由
これらがつながっていれば、本人の選択をどのように支えたかを説明しやすくなります。
複数の事業所を一覧で見せれば十分とは限らない
形式上、複数の事業所名を提示していても、実質的に自法人を勧めていれば、中立的な支援とはいえません。
たとえば、
他にも事業所はありますが、うちのB型が一番安心ですよ
という説明では、本人が自由に比較できたとは評価しにくいでしょう。
一方で、すべての利用者に同じ数の事業所を紹介しなければならないわけでもありません。
本人の希望や障害特性、通所可能な範囲、作業内容、支援体制などを踏まえ、比較に必要な情報を分かりやすく提供することが大切です。
法人内の情報共有と意思決定は分けて考える
同一法人内に就労選択支援とA型・B型などがある場合、情報共有をしやすいことは利点です。
ただし、情報共有のしやすさと、本人の行き先を法人内で決めることは別です。
法人内で運用するときは、次の点を明確にしておく必要があります。
- 就労選択支援担当者の役割
- A型・B型などの担当者との情報共有方法
- 本人の同意を得る範囲
- 外部事業所の情報収集方法
- ケース会議の参加者
- 最終的な選択を本人へ確認する方法
- 利用先の集計と集中割合の確認方法
特に、就労選択支援の評価結果が、そのまま自法人事業所への利用決定にならないよう、手続を分けておくことが重要です。
「自法人への送客」という考え方を持ち込まない
就労選択支援は、法人の利用者を確保するための営業導線ではありません。
事業所側にとって自法人のサービスが最適に見えても、本人が別の事業所や一般就労を希望することがあります。
その場合に、本人の希望を尊重し、必要な情報提供や連絡調整を行える体制が求められます。
結果として自法人を選ぶ利用者が多くなることと、最初から自法人へつなぐ前提で支援することは、同じではありません。
事業所で確認しておきたい書類
就労選択支援を運営する場合、少なくとも次の書類と運用を確認しておきましょう。
- アセスメント結果
- 本人の希望を確認した記録
- サービス提供記録
- ケース会議記録
- 情報提供を行った事業所の記録
- 本人へ説明した内容
- 関係機関との連絡調整記録
- 利用先と運営事業者の集計表
- 特定事業所集中減算の確認資料
厚生労働省は、就労選択支援の実施通知、実施マニュアル、Q&A、ケース会議記録やサービス提供記録の様式を公表しています。
事業所独自の様式を使用する場合も、必要な支援経過を確認できる内容になっているかを点検する必要があります。
まとめ|自法人利用ではなく、選択の過程が問われる
就労選択支援を利用した人が、自法人の就労移行支援、A型・B型へ進むこと自体は禁止されていません。
特定事業所集中減算で確認されるのは、正当な理由なく、同一の事業者が提供する就労系サービスへの集中割合が80%を超えているかどうかです。
ただし、減算基準に該当しなければ、自法人へ誘導してよいという意味でもありません。
重要なのは、
- 本人の希望を確認する
- アセスメント結果を共有する
- 比較できる情報を提供する
- 本人が選んだ過程を記録する
- 利用先の集中状況を継続して確認する
という運用です。
就労選択支援では、「どこを選んだか」だけでなく、本人がどのように選べたかまで説明できる状態を整えることが求められます。
