利用者満足度調査というと、次のようなイメージを持つ事業所もあるかもしれません。
- 利用者にアンケートを配る
- 満足・不満足を集計する
- 良い結果をホームページに掲載する
- 事業所のPRや差別化に使う
しかし、利用者満足度調査の本来の目的は、事業所を良く見せることではありません。
利用者が日頃感じている不安、困りごと、希望を把握し、支援や運営の改善につなげることです。
障害福祉サービス事業者には、利用者の意向、適性、障がいの特性などを踏まえてサービスを提供し、その効果を継続的に評価しながら、適切かつ効果的な支援を行うことが求められています。
この記事では、障がい福祉事業所が利用者満足度調査を行う際の考え方、質問項目、実施方法、結果の生かし方を整理します。
利用者満足度調査はすべての事業所に義務付けられているのか
就労継続支援B型、生活介護、共同生活援助など、すべての障害福祉サービスについて、同じ形式の利用者満足度アンケートを毎年実施することが一律に義務付けられているわけではありません。
一方で、障害福祉サービス事業者には、提供するサービスの質を評価し、その改善を図ることが求められています。
また、サービス種別によっては、個別の評価・公表制度があります。
たとえば、児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援では、自己評価や保護者評価などを実施し、その結果と改善内容を公表することが義務付けられています。
したがって、利用者満足度調査を考える際には、
- 法令上、必須となる評価
- 自治体への届出や公表が必要な評価
- 事業所が任意に行う利用者アンケート
を混同しないことが重要です。
「満足度」だけを聞いても改善にはつながりにくい
利用者満足度調査で、
現在の事業所に満足していますか
という質問だけを行っても、改善に必要な情報は十分に得られません。
「満足している」と回答した人が、何に満足しているのか。
「どちらともいえない」と回答した人が、何を迷っているのか。
「不満がある」と回答した人が、具体的にどの場面で困っているのか。
そこまで分からなければ、事業所として何を改善すべきか判断できません。
調査では、満足度という抽象的な評価だけでなく、支援や生活の具体的な場面に分けて確認する必要があります。
利用者満足度調査で確認したい主な項目
質問項目は、事業所のサービス種別や利用者の状況によって調整します。
一般的には、次のような項目が考えられます。
職員の関わり方
- 職員は話を最後まで聞いてくれるか
- 困った時に相談しやすいか
- 威圧的な言葉や態度を感じることはないか
- 職員によって対応が大きく異ならないか
- 自分の希望を尊重してもらえているか
支援内容
- 自分の目標に合った支援を受けられているか
- 支援内容について説明を受けているか
- 個別支援計画の内容を理解できているか
- 必要な配慮が行われているか
- 支援内容の変更を相談できるか
安心・安全
- 事業所内で安心して過ごせるか
- 他の利用者との関係で困っていないか
- 虐待、嫌がらせ、差別的な対応への不安がないか
- 体調が悪い時に相談できるか
- 個人情報やプライバシーが守られていると感じるか
活動・仕事
就労系事業所では、次のような項目も考えられます。
- 作業内容について説明を受けているか
- 自分に合った作業を選択できるか
- 作業量やペースが適切か
- 工賃や賃金の仕組みを理解できているか
- 働き方や今後の進路を相談できるか
生活環境
生活介護や共同生活援助などでは、次のような項目も考えられます。
- 食事、入浴、居室などの環境に不満がないか
- 生活上のルールについて説明されているか
- 自分の時間や私物が尊重されているか
- 外出、買物、余暇活動などの希望を伝えられるか
- 家族との連絡方法に困っていないか
総合的な意見
- 今後もこの事業所を利用したいと思うか
- 良いと思っている点
- 改善してほしい点
- 新たに取り入れてほしい支援や活動
- 職員には直接伝えにくいこと
回答しやすい方法を選ぶ
利用者満足度調査は、紙のアンケートを配れば終わりではありません。
文字を読むことが難しい人、質問の意味を理解しにくい人、自分の気持ちを言葉にすることが難しい人もいます。
そのため、利用者に合わせて回答方法を工夫する必要があります。
質問文を短くする
一つの質問に複数の内容を入れないようにします。
たとえば、
職員はあなたの話を聞き、希望を尊重して、分かりやすく説明してくれますか
という質問では、何について回答すればよいのか分かりにくくなります。
次のように分けた方が適切です。
- 職員はあなたの話を聞いてくれますか
- 職員はあなたの希望を確認してくれますか
- 職員の説明は分かりやすいですか
選択肢を分かりやすくする
回答欄は、数字だけでなく、次のような表現を組み合わせます。
- とてもそう思う
- そう思う
- あまりそう思わない
- そう思わない
- 分からない
- 利用していないため答えられない
必要に応じて、表情のイラスト、絵記号、色分けなどを用いる方法もあります。
読み上げや聞き取りを行う
自分で記入することが難しい場合は、質問を読み上げたり、聞き取りによって回答してもらったりする方法があります。
ただし、普段支援を担当している職員が直接聞き取ると、利用者が本音を言いにくくなる可能性があります。
聞き取りを行う場合は、
- 担当職員以外が行う
- 相談支援専門員など外部の支援者に協力を求める
- 回答内容を担当職員へそのまま伝えない
- 個人が特定されない形で集計する
などの配慮が必要です。
「分からない」という回答も認める
無理に満足・不満足のどちらかを選ばせてはいけません。
質問の意味が分からない、経験したことがない、答えたくないという場合もあります。
「分からない」「答えたくない」「利用していない」という選択肢を設けることも、本人の意思を尊重する方法の一つです。
家族や支援者の回答は、本人の回答と分ける
本人が回答しにくい場合、家族や支援者に代わりに回答してもらうことがあります。
ただし、家族の評価と本人の評価は同じではありません。
たとえば、家族は「職員の対応が丁寧」と感じていても、本人は「職員に本音を言いにくい」と感じているかもしれません。
そのため、
- 利用者本人の回答
- 家族の回答
- 支援者による観察
- 職員の自己評価
は、可能な限り分けて整理します。
本人が言葉で回答できない場合も、表情、行動、拒否、選択、日常の変化などから意思を確認する必要があります。
ただし、支援者の推測をそのまま「本人の意見」として扱わないことが重要です。
匿名性をどこまで確保するか
利用者満足度調査では、匿名性の確保が重要です。
特に小規模な事業所では、自由記述の内容や回答者の属性から、誰が回答したのか分かってしまう可能性があります。
利用者が、
悪いことを書いたら、今後の支援に影響するかもしれない
と感じれば、本音を書けません。
調査を実施する前に、次の事項を説明します。
- 回答は強制ではないこと
- 回答しなくても不利益を受けないこと
- 回答内容をどのように集計するか
- 誰が回答を見るのか
- 個人名を公表しないこと
- 個別対応が必要な内容については、本人へ確認することがあること
一方、虐待、権利侵害、安全上の重大な問題などが書かれていた場合は、匿名だから何もしなくてよいわけではありません。
事実確認や緊急対応が必要な内容と、統計的に分析する内容を分けて扱う必要があります。
調査結果は「点数」より内容を見る
満足度調査を行うと、つい平均点や満足率に目が向きます。
しかし、回答者が少ない事業所では、一人の回答によって割合が大きく変わります。
また、利用者が職員への遠慮から高い評価を付けている可能性もあります。
したがって、
満足度90%だったから、事業所運営に問題はない
とは判断できません。
次のような視点で分析します。
- 評価が低かった質問は何か
- 「分からない」が多かった質問は何か
- 前回調査から変化した項目は何か
- 自由記述で繰り返し挙げられた意見は何か
- 利用者と家族で評価が異なる項目は何か
- 職員の自己評価と利用者評価に差がある項目は何か
「分からない」が多い場合は、サービス内容やルールが十分に説明されていない可能性もあります。
集めた意見を改善につなげる
利用者満足度調査で最も重要なのは、調査後の対応です。
厚生労働省の福祉サービス第三者評価基準でも、利用者満足を把握するだけでなく、その結果をサービス改善へ生かすことが重視されています。利用者満足の把握方法としては、調査、個別聴取、利用者懇談会などが挙げられています。
調査後は、次の手順で整理します。
1.結果を集計する
回答数、回答率、質問ごとの傾向、自由記述の内容を整理します。
2.課題を分類する
課題を、たとえば次のように分類します。
- すぐに改善できるもの
- 職員間で検討が必要なもの
- 個別支援計画で対応するもの
- 設備や予算の都合ですぐには対応できないもの
- 法令や制度上、希望どおりに対応できないもの
- 虐待や権利侵害など、直ちに確認が必要なもの
3.改善策を決める
「意見を確認した」で終わらせず、誰が、何を、いつまでに行うのかを決めます。
たとえば、
- 職員の説明方法を統一する
- 個別面談の回数を増やす
- 作業の選択肢を見直す
- 苦情受付窓口を再周知する
- 個別支援計画の説明資料を分かりやすくする
- 職員研修のテーマに取り入れる
といった対応が考えられます。
4.改善結果を利用者へ伝える
利用者から意見を集めても、その後何も伝えなければ、
書いても何も変わらない
と思われてしまいます。
すべての希望に応えられなくても、
- どのような意見があったか
- 何を改善するか
- 今回は対応できないものは何か
- なぜ対応できないのか
- 今後どのように検討するか
を説明することが重要です。
調査結果を公表するときの注意点
利用者満足度調査の結果をホームページや事業所内に掲載すること自体は、情報提供の一つとして考えられます。
障害福祉サービス等情報公表制度も、利用者が良質なサービスを選択できるようにするとともに、事業者のサービスの質の向上につなげることを目的としています。
ただし、満足度調査の結果を広告的に利用する場合は、見せ方に注意が必要です。
たとえば、
利用者満足度100%
とだけ掲載しても、
- 回答者は何人か
- 回答率は何%か
- 誰が調査したのか
- どの質問への満足度か
- 匿名で回答できたのか
が分からなければ、客観的な評価とはいえません。
公表する場合は、少なくとも次の事項を併記した方が適切です。
- 調査期間
- 対象者数
- 回答者数
- 回答率
- 調査方法
- 主な質問項目
- 集計方法
- 改善した内容
- 今後検討する内容
また、自由記述を掲載する場合は、個人や職員が特定されないように内容を加工する必要があります。
苦情受付制度の代わりにはならない
利用者満足度調査は、利用者の意見を把握する方法の一つです。
しかし、苦情受付、虐待防止、個別面談、モニタリングなどの代わりになるものではありません。
半年や1年に一度のアンケートを待っていては、重大な問題への対応が遅れます。
日常的に、
- 利用者が相談できる機会を確保する
- 苦情受付窓口を分かりやすく案内する
- 個別支援計画のモニタリングを行う
- 職員会議で支援上の課題を共有する
- 虐待や権利侵害の兆候を確認する
といった取組を継続し、その補助的な方法として満足度調査を位置付けます。
行政書士が支援できる範囲
行政書士は、事業所の運営状況やサービス種別に応じて、次のような支援を行うことができます。
- 調査の目的と対象者の整理
- アンケート様式の作成
- 質問項目の整理
- 回答方法の設計
- 実施手順書の作成
- 集計表や改善記録様式の作成
- 運営規程、苦情対応、個別支援計画等との整合性確認
- 調査結果を踏まえた改善事項の整理
- 行政へ説明できる記録の整備
ただし、行政書士が事業所に代わって、利用者の満足度そのものを評価したり、支援の良し悪しを断定したりするものではありません。
利用者の声を適切に把握し、事業所自身が改善を続けられる仕組みを整えることが支援の中心となります。
当事者として考える利用者満足度調査
障がい福祉サービスを利用する立場から見ると、アンケートへの回答は必ずしも簡単ではありません。
職員との関係を悪くしたくない。
自分だけが不満を持っているのかもしれない。
うまく言葉にできない。
何を書けばよいのか分からない。
そう感じて、本当は困っていても「特にありません」と答えることがあります。
だからこそ、調査票を作るだけでは不十分です。
利用者が安心して答えられること。
答えなくても不利益がないと理解できること。
伝えた意見が放置されないこと。
この三つがなければ、利用者満足度調査は形式的なものになってしまいます。
調査結果を事業所の評価を高める材料として使う前に、利用者が何を感じ、何に困り、どのような支援を望んでいるのかを知ることが重要です。
まとめ
障がい福祉事業所の利用者満足度調査は、すべてのサービスに同じ形式で一律に義務付けられたものではありません。
しかし、障害福祉サービス事業者には、利用者の立場に立ってサービスを提供し、その効果や質を評価しながら改善することが求められています。
実施する際は、次の点が重要です。
- 満足・不満足だけでなく、具体的な支援場面を確認する
- 利用者の障がい特性に応じた回答方法を用意する
- 本人、家族、職員の評価を分けて整理する
- 匿名性と安全性を確保する
- 結果を集めるだけでなく、改善策を決める
- 改善内容を利用者へ伝える
- 苦情受付や日常的な意思確認の代わりにしない
利用者満足度調査は、事業所の良さを証明するための点数表ではありません。
利用者の声と、事業所が考えている支援との間にあるズレを見つけ、よりよい運営へつなげるための仕組みです。
