はじめに
令和7年(2025年)、大阪府の最低賃金を現行の1,114円から1,177円へと63円引き上げることが大阪地方最低賃金審議会より答申されました。10月16日からの適用が予定されています。一見すると、働く障がい者の方々にとって喜ばしいニュースに映るかもしれません。しかし、就労継続支援A型事業所(以下、A型事業所)の現場を知る者として、また障がい者当事者として、この引き上げが孕む深刻な課題について警鐘を鳴らしたいと思います。
最低賃金引き上げの数字の意味
利用者への影響
1日5時間、週5日通所している利用者の場合:
- 月間労働時間:100時間(5時間×5日×4週)
- 賃金増加額:6,300円(63円×100時間)
- 年間では75,600円の増収
確かに数字だけを見れば、利用者にとって大きなメリットです。
事業所への影響
しかし、この6,300円の増額は、そのままA型事業所の負担増となります。重要なのは、就労継続支援A型における利用者への賃金支払いは、介護給付費等の訓練等給付費からの充当が法的に禁止されており、事業所の生産活動収入(自主事業収入)から支出しなければならないという制度上の制約です。つまり、国や自治体からの給付金は一切使えず、事業所が独自に稼いだ利益だけで利用者の給与を賄わなければならないということです。
A型事業所の現状と課題
多くの事業所が直面している厳しい現実
私が元利用者として経験し、現在行政書士としてA型事業所と関わる中で見えてきたのは、多くの事業所が余裕のある経営状況にはないという現実です。
多くのA型事業所は:
- 様々な受託業務を組み合わせて運営
- 薄利多売の構造
売り上げに余裕がある事業所は少数派
現状で十分な売り上げを確保し、63円の時給引き上げに対応できる事業所は、残念ながら少数派だと言わざるを得ません。
負のスパイラルの危険性
最低賃金の引き上げが引き金となって、以下のような負のループに陥る可能性があります:
第1段階:受注量の無理な増加
今まで以上に受注を増やす必要性
- 同じ人員で業務量が増加
- 品質管理が困難になる
- 支援員の負担が急激に増加
第2段階:支援員による業務代行
作業工数不足への対応
- 支援員が利用者の業務をカバー
- 本来の支援業務時間が削減
- 利用者への個別対応が困難に
第3段階:支援の質の低下
支援員の繁忙による影響
- 利用者の変化や困りごとに気づけない
- 相談しにくい雰囲気の形成
- 利用者の心理的負担増加
第4段階:利用者の通所率低下
環境悪化による影響
- 職場環境への不満
- 通所意欲の低下
- さらなる業務の滞り
第5段階:悪循環の完成
最終的な結果
- 支援員がさらに利用者業務に介入
- 事業所としての機能不全
- 最悪の場合、事業所閉鎖
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A型事業所の真の価値
単なる就労の場ではない存在
A型事業所は、利用者にとって以下のような多面的な価値を持っています:
日中活動の拠点
- 規則正しい生活リズムの維持
- 社会参加の機会
- 自己肯定感の向上
相談・支援の場
- 日常的な困りごとの相談窓口
- 専門的な支援の提供
- 同じ境遇の仲間との交流
社会とのつながり
- 外出の機会創出
- 地域社会との接点
- 将来への希望とステップ
月6,300円の賃金増加を喜んだ数か月後に、通所していた事業所が閉鎖してしまえば、利用者は居場所そのものを失ってしまいます。
当事者として感じる危機感
極端な話ではない現実
元A型事業所利用者として断言しますが、前述の負のスパイラルは決して極端な想定ではありません。多くの事業所が、日々この危険性と隣り合わせで運営されているのが実情です。
支援者と利用者の板挟み
現場の支援員の方々も、利用者への適切な支援を提供したい思いと、事業所の経営を成り立たせる必要性の間で苦悩しています。
課題解決に向けた提案
1. 段階的な賃金引き上げ制度の検討
- 事業所の規模や収益状況に応じた猶予期間の設定
- 小規模事業所への特別な配慮措置
2. 公的支援の拡充
- 給与支払いに関する補助金制度の創設
- 事業所運営に対する追加的な支援策
3. 事業モデルの多様化支援
- 高付加価値業務への転換支援
- ITスキル向上に対する公的支援
- 地域企業との連携強化
4. 法制度の見直し
- A型事業所特有の課題を考慮した制度設計
- 利用者給与の給付金使用に関する制限緩和の検討
5. 事業所間の連携強化
- 共同受注システムの構築
- ノウハウ共有の仕組み作り
- 経営相談体制の充実
行政手続きと制度活用のサポート
専門的支援の必要性
これらの課題に対応するためには、障がい者福祉制度に精通した専門家のサポートが不可欠です:
制度活用のサポート
- 各種補助金・助成金の申請支援
- 制度改正への対応
- 行政との連携窓口
事業所運営の法的サポート
- 就労継続支援事業の許可申請
- 運営基準の遵守確認
- 制度変更への対応策
利用者権利の保護
- 適切な労働条件の確保
- 支援計画の適正化
- 苦情対応システムの整備
まとめ
最低賃金の引き上げは、働く障がい者の生活向上という重要な目的を持っています。しかし、その実現のためには、A型事業所が安定的に運営できる環境整備が同時に必要です。
利用者の賃金向上と事業所の持続可能性、この両立こそが真に障がい者の福祉向上につながる道筋だと確信しています。
私たちには、この課題を単なる経営問題として捉えるのではなく、障がい者の尊厳ある生活と社会参加を実現するための重要な岐路として、真摯に取り組む責任があります。
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私自身、障がい者福祉サービス(A型・B型事業所)を利用していた経験があります。
「現場の実際を知りたい」
そんな“制度と現実の間”で迷っている方の相談相手として、利用者側と支援者側、両方の視点を持つピア行政書士として、一緒に最適な道を探します。
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一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。共に解決策を見つけていきましょう。

